以前読んで、心に残っている本についての私的な感想文です。読んだことがある方とは共感できれば、ない方は参考になるようでしたら幸いです。
翔ぶが如く(一)/司馬遼太郎
大河ドラマ「西郷どん」の開始当初に読もうか迷って、そのまま積ん読しておいた司馬遼太郎の『翔ぶが如く』を読み始めました。
この本をなぜ迷ってすぐ読み始めなかったか。その理由は、まさにドラマの後半、明治維新により政府が出発したところから物語が始まるからです。
まさにドラマとの違いを確認しながら読むような感じとなりました。
文庫本で全10巻とドラマが終わるまでには、到底読み終えることはできそうにありませんが、極力読み進めてみたいと思います。
(全章あらすじを書きますので、ある程度ネタバレになってしまう部分もあります。以降読まれる方はご注意ください)
目次
はじめに
パリで
東京
鍛治橋
情念
小さな国
渋谷金王町
パリで
ドラマ「西郷どん」では、朝ドラ「ひよっこ」で三男役の泉澤祐希さんが演じている薩摩出身の川路利良(としなが)がまずは登場する。英仏独の司法および警察制度を学ぶために土佐人・河野敏鎌を筆頭に旧幕臣・沼間守一ら5人とともにパリで視察する様子が描かれる。川路が感じたパリのポリス、そして犯罪の抑止ともなっているガス灯への感銘などもあり、その献言が二年後の東京にガス灯をもたらす。
東京
英国やプロシアなどヨーロッパ各国をまわり、滞欧一年後、帰路ふたたびフランスをへて帰国の途にある様子が描かれる。船が香港に入ったとき、新聞による日本の国内情勢は、ちょうどドラマで西郷が一人で国使として行こうとしていた征韓論が巻き起こっているところ。このころすでに民権家である沼間と河野二人で船中、西郷のことを西郷宗ともいえる、その神のような存在について話題にする。そこに薩摩出身で西郷を慕う川路が加わり、反感を示すも、その将来にもかかわる時勢の危惧を話し合う。
鍛治橋
鍛冶橋とは内桜田にある川路の役所がある場所。川路の役所とはフランスの制度をまねて首都警察をつくろうというところ。ちなみに川路は後に初代大警視(現在の警視総監)となる。帰国後、あいさつまわりに忙しく、まず最初にあいさつにいったのが、川路たち司法省役人の直接の先輩、司法卿江藤新平のところ。
川路の意見としては警察は行政の子であって、司法の子ではないとし、行政警察は内務省に所属すべきと意見し、江藤の反感を買う。
そして次にあいさつにいくのが内務省の設立を進めている大久保利通のところ。意見のあう大久保と直属の先輩のどちらにつくか大いに迷う。
そして、最後にあいさつにいったのが、自分を引き上げてくれた同郷の恩人、西郷隆盛のところ。つまり利害関係がないため、あとまわしにした。征韓論に動く西郷と同郷で近衛将校の桐野利秋に川路は反対の意見を持つ。その辺の心理的な部分と立場で揺れ動く。ちなみに征韓論の考え方は、ドラマで描かれているような部分とは少し内容が違っていて、どちらかといえば、西郷が国使として行き、万が一殺されるようなことがあれば、その結果をもって武を用いればよいというようなことが書かれていて、ニュアンスが違うと感じる。
なお、大久保の評判も賛否書かれているが、ドラマを見ているイメージに近い評判もあれば異なる評判もあり、そのどちらが近いイメージなのかはこれだけでは判断できない。
情念
ドラマの中で、明治維新がなるまでは常に一緒に行動していた川路と人斬り半次郎こと桐野利秋。征韓派の巨魁とみられる霧野が陸軍少将になり、東京に駐屯していたころ、文官に陸軍の兵隊が金をせびる悪習があった。それを断った文官の有馬は、郷党の間で久しぶりに両国の中村楼で酒宴がひらかれた時、襲われたが逃げ、大騒ぎとなった。
その騒動にかけつけたのが、警察の立場としての川路。天下をとった薩摩人は軍人と文官と警察官に分かれ、それぞれが対立いる。その対立する川路と霧野が対面し、一瞬殺気立ったが、霧野が態度を一変し、一緒に風呂に入りに行く。この辺の機微は複雑である。
先にも少し触れたが、私的に歴史に疎いので、あまり詳しく知らなかったのですが、征韓論に関してはこの本を読んでみてドラマの中との温度差はかなり違っている印象を受けた。これはおそらく国際上のことを考えるとテレビではありのままに描けなかったのではないかと推測しますが、西郷にとってもその他の留守内閣にとっても、本当に重要な転換点だったことがより鮮明に知ることができる。
また、留守内閣において大久保のスパイとしての役割を演じた大隈重信や、明治維新によって西郷や大久保に裏切られる形となった島津久光らの心情などが詳細に描かれる。
小さな国
木戸孝充が病気療養をしている西郷に会いに行く。ドラマでも会いにいくシーンがありましたね。
外遊を通じて国際法では小さな国は守られることはないと実感した木戸。ロシア、プロシア、オーストリアによって分割されたポーランドに後の西郷らのゆくすえを案じる。ポーランドが滅んだ原因を「国家に憲法がなく、人民に権利がなかった」からと憲法の重要性をいちはやく感じていた。
征韓論に憂えて西郷を説得にあたるも、飄々と受け流す西郷により、言いたいこともいえずに帰路につく。木戸は大久保のことは藩官僚であっただけで志士として認めず、西郷のことも過去の経緯から悪感情をもつものの、同じ志士としての近いものを実感する。
渋谷金王町
渋谷金王町とは病気療養で西郷が身をよせている弟の西郷従道屋敷のある町。川路が西郷を訪ねる。反政府が立つかどうか西郷に意見を聞きに行った。西郷は乱はおこらないようにすれば、おこらないと前提付きで断定する。
西郷の尊敬する人として、司馬光と島津斉彬について触れられる。斉彬に関してはドラマの前半で主役級に描かれたが、この本では折にふれ、そのドラマの前半部分で描かれたような部分もある程度説明されており、斉彬の功績が紹介されている。
実は川路が訪問したのは大久保の示唆によるものだった。川路はなんと報告したらいいか大いに迷う。
一巻はここまで。
気になった方は、ぜひ。