【読書の日記】42日目: 宮部 みゆき『名もなき毒』読了

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名もなき毒』読了

宮部みゆきさんの小説は、かなりの冊数とボリュームがありますので、すべて読んでいるわけではありませんが、代表作を中心に、半分ぐらいは読めているのでしょうか。もしかしたら3分の1ぐらいかもしれません。

ミステリーは特に名作ぞろいですが、そのうち、現在6冊(下記参照)ある「杉村三郎シリーズ」は以前ドラマ化された『ペテロの葬列』(「名もなき毒」の次作)を先に見てしまったこともあり、小説は未読のままだったので、2作目にあたる『名もなき毒』(こちらもドラマ化されていますが)を読んでみました。結構ボリュームはありますが、サクサク読めるのが、宮部さんの小説のいいところでもあります。

(ミステリーですので、あらすじは軽くふれますが、ネタバレは注意して書きます)

 


名もなき毒 (文春文庫)

 

未読の方のために「杉村三郎シリーズ」というのを簡単に説明しますと、主人公の杉村三郎は、児童書専門の出版社の編集者でしたが、逆玉の輿ともいえる今多コンツェルンという大会社の会長の娘と結婚する条件として、同コンツェルングループ広報室で社内報を作る編集者として働くことになりました。ただし、コンツェルンに対して実権を持つことは許されない、一社員としてです。娘といっても妻の菜穂子は妾の子ということもあり、娘婿となることに三郎の家族は反対し、絶縁状態な感じです。

第1作目の『誰か Somebody』でこの辺の経緯が描かれているかと思いますが、いきなり、この2作目から読み始めても、その辺のこともさらりと触れられていますし、1作目で事件があったというようなことも軽く触れられている程度ですので、2作目から読んでもまったく問題ありませんでした。

この杉村三郎は、ただの編集者なのに、事件によく巻き込まれます。文中にもありますが、温和な性格で、困った人に対してほっておけない人柄が事件を呼んでしまうのでしょう。まさに内田康夫さんのルポライター浅見光彦さんのようなものです(彼は警視監の弟ということも多少関係があると思いますが)。

この『名もなき毒』は主に2つの出来事を軸に展開していきます。1つは、無差別連続毒(青酸カリ)殺事件。もう一つは度重なるトラブルを起こす広報室のアルバイト、原田いずみを解雇したことによって生じるモンスターぶりの問題が並行して描かれます。杉村に直接関係するのはこの原田いずみの方ですが、先に述べたようにまったく関係のなかった無差別連続毒殺事件にも、いつの間にか巻き込まれていきます。もちろん、その成り行きの描かれ方が自然でうまいのが、さすがとうなってしまうストーリー展開でもあります。

この作品は、「杉村三郎シリーズ」のテーマのようなものでもある悪意が満ち溢れています。その原田いずみの悪意は相当なものですが、その他にも、タイトルにもある「毒」が、ただの事件以外にもさまざまなものを象徴していて、例えば、土壌汚染のテストのために植えられた花は、人間でいう毒味の役割を果たしていたり、嘘や言葉の暴力ともいえる毒舌のようなものが人を苦しめたり、時に人を死に追いやったりします。

読んだ方はわかると思いますが、結婚式をめぐるシーンで、本当はどうだったのかという見解が、編集長と杉村の妻で分かれるのが、私的に面白いなと思いました。

また、私立探偵の北見が言ったセリフ

「たいていの人間は、自分の素性を偽ったりしない」〜中略〜「我々はみんなそう思い込んでいます。そんなことをするのは詐欺師とその同類のみだ。普通の人間なら、けっしてしない。でも現実には、普通の人間が普通の顔でそういうことをする場合もあるんです」

が、妙に心に残りました。

 

謎解きはもちろん、人間の心理をさぐるような部分が、この小説の楽しみ方でもあります。読んだ感触としては代表作『模倣犯』を少し彷彿とさせる、宮部ミステリーの傑作のひとつだと思います。

 

 

杉村三郎シリーズ
  • 誰か Somebody
  • 名もなき毒
  • ペテロの葬列
  • 負の方程式(ソロモンの偽証 第III部 法廷 下巻(文庫)に収録)
  • 希望荘(収録作品:聖域 / 希望荘 / 砂男〈「彼方の楽園」を改題〉 / 二重身)
  • 昨日がなければ明日もない(収録作品:絶対零度 / 華燭 / 昨日がなければ明日もない)

 

気になった方は、ぜひ。

 

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