【私的オススメ ミステリー小説】ゴールデンスランバー / 伊坂 幸太郎

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ゴールデンスランバー

本作のタイトルは、言わずとしれたビートルズの実質的なラスト・アルバム『アビイ・ロード』の後半8曲のメドレーの中の1曲。(発売順としてのラストは『レット・イット・ビー』)

もともとは400年前の子守唄「Golden Slumbers Kiss Your Eyes」の詩を一部ベースにしてポール・マッカートニーが作曲したもの。美しいピアノとストリングスでポールが絞り出すようにシャウトし、高らかに歌う曲は、わずか1分30秒ほどですが印象的です。

ゴールデンスランバー」とは直訳すれば黄金のまどろみ、というところですが、作中では主人公とかつての友達の会話の中で、この曲の冒頭の歌詞、「Once there was a way to get back homeward(昔は故郷へ続く道があった)」にちなんで語っています。

「学生の頃、おまえたちと遊んでいた時のことを反射的に、思い出したよ」

「学生時代?」

「帰るべき故郷、って言われるとさ、思い浮かぶのは、あの時の俺たちなんだよ」 

「なんか、そんな気がするんですよね。今はもうあの頃には戻れないし。昔は、帰る道があったのに。いつの間にかみんな、年取って。」

 まさに修復不能となっていくビートルズをしのばせるようなセリフですが、この小説は首相が暗殺された事件の犯人としての濡れ衣を着せられた主人公が、巨大な陰謀から逃亡する物語で、その事件をきっかけにずっと会っていなかったかつての仲間たちと複雑な事情で再会し、かつての古い記憶と現在の困難な状況がオーバーラップしていくという、超弩級のエンタメミステリーです。また、状況設定がどこかで聞いた話だと思う通り、ケネディ暗殺事件の犯人とされたオズワルドに主人公をなぞらえています。

状況設定としては首相公選制のある現実の日本とは異なる日本を描いていて、仙台を舞台にセキュリティポッドという監視カメラが街中に張り巡らされた総監視社会で、現在の国家や政治を風刺しているような作品でもあります。ただ、伊坂さんが気をつけたという上から目線のような偉そうな感じにならないように注意して書いたというさすがな仕上がりです。

そんな中でも僕が一番好きなシーンが、逃げる主人公の父親が、自宅でリポーターに囲まれ、名乗りもしないリポーターに発したセリフです。

「名乗らない、正義の味方のおまえたち、本当に雅春が犯人だと信じているのなら、賭けてみろ。金じゃねえぞ、何か自分の人生にとって大事なものを賭けろ。おまえたちは今、それだけのことをやっているんだ。俺たちの人生を、勢いだけで潰す気だ。いいか、これがおまえたちの仕事だということは認める。仕事というのはそういうものだ。ただな、自分の仕事が他人の人生を台無しにするかもしれねえんだったら、覚悟はいるんだよ。バスの運転手も、ビルの設計士も、料理人もな、みんな最善の注意を払ってやってんだよ。なぜなら、他人の人生を背負ってるからだ、覚悟を持てよ」

昨今のSNSやメディアに思うことは多々ありますが、そんなことを痛切に代弁してくれているいいセリフだと思いました。

伊坂さんの小説でどれを一番の傑作とするかは好みがわかれるところではあると思いますが、2008年(第5回)本屋大賞山本周五郎賞を受賞し、その年の「このミステリーがすごい!」でも第1位を獲得した文句なしの傑作のひとつだと思います。文庫本で700ページ近くあり、けっこう読むのに骨が折れますが、前半から張り巡らされた伏線をきれいに回収していくラストは見事の一言。

 

 

 

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