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【私的オススメ 読書感想文】海炭市叙景 / 佐藤 泰志

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 以前読んで、心に残っている本についての私的な感想文です。読んだことがある方とは共感できれば、ない方は参考になるようでしたら幸いです。

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海炭市叙景 / 佐藤 泰志

この小説をどこで知ったか覚えていないのですが、おそらく堀江敏幸さんあたりの書評を読んだのだと思います。それがものすごくひっかかり、読みたいと購入したものの、しばらく積ん読していて、やっと読みました。

 


海炭市叙景 (小学館文庫)

 

当然、そんなどこで知ったかも思い出せないくらいなので、あらすじも知らないまま読み始める。「第一章「物語のはじまった崖」1 まだ若い廃墟」で兄妹が初日の出を見に行こうとロープウェイで山にのぼる。

父母のいない二人。兄は勤めていた炭鉱が閉山し、失業中のためあまりお金がなく、部屋にあったありったけのお金をかき集めてのぼった。

のぼった帰り、お金のない兄は、歩いて下山するという。ひとりで先に下山した妹はロープウェイ乗り場で兄を待つものの何時間待っても兄は降りてこない。ロープウェイが閉まるというのにおりてこないので、警察に捜索をお願いするように電話をかける。とそこで終わる。

なぜ?どうした?どうしたのだろう、続きが気になる。

そして、「2 青い空の下の空」になるとまったく別の人物が出てきて、兄弟の話はテレビのニュースで話は出てくるものの、別の物語が進行する。

そこで、やっと気づく。あ、これ、群像劇の連作短編集だったんだと。

全体がそんな感じで、人生の一場面を切り取ったような終わり方だったりするので、気になるその後の物語ははっきりと知ることはできない。

海炭市という、架空の北国の都市が舞台で、それは作者の函館がモデルになっているだろうことは伺いしれる。18の物語がそれぞれ9篇ずつ第一章と第二章に分かれていて、第一章はそれぞれの登場人物の時間軸や他の物語が少しだけリンクする形となっているが、第二章にいたっては、舞台が海炭市という共通点があるだけで、もはやそれぞれ個人個人の独立した物語となっている。

先にあげた若い兄妹、首都(東京のことだと思うが)から故郷に戻ってきた若夫婦、家庭に問題を抱えるガス店の若社長、14歳の少年、定年間近の路面電車運転手、職業訓練校に通う中年、競馬に入れ込むサラリーマンなどなど、多種多様な18人の人生が描かれ、発展していく都市とは裏腹にそこに登場人物だけ取り残されていくかのようで、多少希望を感じさせる話もありつつ、そのほとんどがどこか物悲しくも引き込まれるような物語である。

おそらく、好き嫌いのはっきり分かれる作品ではあると思う。

佐藤泰志さんは知る人ぞ知る近代文学作家であるが、1990年41歳の若さで自殺により、この世を去っている。死後は絶版が続いていたものの2007年に作品集が発刊され、以後再評価が進み、何作かは映画化もされている。そしてこの海炭市叙景は遺作でもあり、本来は36の物語からなる作品になるはずであった未完の短編小説である。作品を季節でたとえるならば、この18の物語は冬と春であり、このあとに夏と秋が用意されていたという。現状でも短編集なので、読むことに差し障りがあるわけではないが、完結していたら、また違った印象になっていたのかは想像するしかない。

 

気になった方は、ぜひ。

 

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