ライオンのおやつ / 小川 糸
どんな本?
タイトルに帯の一文を引用させていただきましたが、この一文からも想像できるとおり、本作は余命を告げられた主人公の海野雫が、瀬戸内の島にあるホスピス「ライオンの家」で残された時間を過ごす物語を描いた作品です。
そのホスピスでは、毎週日曜日、入居者がもう一度食べたいおやつをリクエストして、みんなで食べるという「おやつの時間」があります。
それをなかなか決めきれずにいた雫が選んだ「最後に食べたいおやつ」とは?
本作は2020年の本屋大賞にもノミネートされており、読んで、間違いなくベスト3には選ばれるのではないかと確信しました。
著者は、『食堂かたつむり』や『ツバキ文具店』など映像化もされている作品を、多数発表している人気作家の小川糸さん。
これまでにも過去2度、『ツバキ文具店』と『キラキラ共和国』で本屋大賞にノミネートされていますが、3度目の正直となるかも注目です。
この本の読みどころ
人の生死を扱う物語なだけに、軽々しく書評もできませんし、賛否の分かれる作品であることは想像できます。
本書で語られているのですが、
“ホスピスは、死を受け入れた者だけを受け入れてくれる場所”
と覚悟を決めてきたはずでも、
“死を受け入れるなんて、そう簡単にできることではなかった”
と迷い、葛藤します。
それでも、あたたかい人たちにふれ、得難い体験をしていくうちに、最後にはそれを受け入れていくその過程が、見事に描かれています。
さまざまな入居者がいて、その出会いと別れ、そして、入居者たちの最後に食べたいおやつのエピソードに、何度涙腺が緩んだことか。
残りのページ数を感じるほどに、読み終わるのが切なく感じてしまいました。
この物語ではひとつの死生観を描いていますが、読む人によってその捉え方は違うのではないでしょうか。
自分自身としては、もちろんその時がこなければ実感としてはわかりませんが、おおむね肯定的に捉えることができました。
過去や現状を嘆くのではなく、今を生きることの大切さを教えてくれる、そんな一冊だと思います。
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