息吹 / テッド・チャン(著) 大森 望(翻訳)
どんな本?
現代SFを代表する作家の一人である、中国系アメリカ人、テッド・チャン。
もしテッド・チャンの名前を知らない人も、大ヒットした映画「メッセージ」をご覧になった方は、なじみがあるかもしれません。
そうです、その原作『あなたの人生の物語』の作者です。
その第一短編集『あなたの人生の物語』から実に17年ぶりという、まさに世界中のSFファンが待ち望んだ新作、第2短編集が『息吹』です。
23歳でデビューし、なんと約30年で世に出した本は、このたった2冊の短編集だけという、寡作ぶり。
それにもかかわらず、発表する短編は、ヒューゴー賞やネビュラ賞、シオドア・スタージョン賞、星雲賞など世界のSF賞をことごとく総ナメにしてしまうのだから、その実力たるや推して知るべしです。
9編の短編からなる本作は、わずか数ページのものから100ページを超えるものまで様々ですが、テクノロジーと現代社会との兼ね合いを比喩的に表現したものや、宇宙の謎にせまるような内容の話が多く、人類が進歩することの是非を暗に問われているような作品が目立ちます。
その他にもアラビアンナイトの枠組みを用いたタイムトラベルものから、どうやったらこんな発想ができるのかというような話まで、まさに珠玉の作品集といえるでしょう。
この本の読みどころ
もし、SFという事前情報がなく読めば、一瞬、ごく普通の現代の物語かと思ってしまいそうな設定だったりしますが、読み進めると違和感のようなものに包まれ、いつのまにか我々の知る世界と似て非なる世界にいざなわれます。
以下、9編のひとこと紹介です。
商人と錬金術師の門
アラビアンナイトの枠組みを用いたタイムトラベルもの。未来の自分に会った人はどうなるかという話。
息吹
*ヒューゴー賞、ローカス賞、英国SF協会賞、SFマガジン読者賞受賞
ガソリンのように給気所というところで肺に空気を保管するような世界。人類と宇宙における空気圧の関係を問う話。
予期される未来
予言機という機械がどういうものかという、わずか4ページの話。
ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
AIのアバターをまさにAIBOのように育てる話。AI(ペット)を育てる難しさとAIと人間にとっての幸せとは何かを考えさせれる。
デイシー式全自動ナニー
機械による子育ての話。 そのように育てられた子はどうなるのか。
偽りのない事実、偽りのない気持ち
人生のあらゆる瞬間を映像で記録できる世界。書くことが廃れた世界で、残された記憶は正しいのかどうかという話。
大いなる沈黙
宇宙には地球以外に知的生命体はいないのか?という謎にせまり、宇宙とコンタクトをとる話。
オムファロス
宇宙はどのように創造されたのかという話。 オムファロスとはギリシャ語でへその意味。
不安は自由のめまい
「もしあのときこうしたら」、そんな分岐点にプリズムという機械で、そのもうひとつのありえた分岐の平行世界とコミュニケーションできる話。
SF素人の雑な要約ですので、誤読の内容がありましたらご容赦ください。
その魅力の1mmも伝えきれていないと思いますが、 まさに読み終わるのがもったいないと思える、自分の想像力では思いもよらないような、発想を広げてくれる一冊です。
この本もおすすめです。
テッド・チャンの魅力が、すべてはこの本につまっています。
第一短編集『あなたの人生の物語』。
未読の方は、まずはこちらを!