ムゲンのi / 知念 実希人
どんな本?
『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』に続いて3度目の本屋大賞にノミネート。
現役医師にして作家という、大谷選手もびっくりの二刀流作家の上下2巻にわたる大作長編『ムゲンのi』。
今回のノミネート作品で上下巻ものは本作だけで、過去には上下巻ものが3年連続で大賞を受賞している年もあり、ひょっとしたらという期待も高まります。
さて、本題の内容です。
全世界で400例ほどしか症例がない、延々と昏睡状態に陥ってしまい、目覚めなくなってしまう特殊性嗜眠症候群、通称『イレス』。
そんな難病が、なんと同時に東京で4人も発生。
どうして?という把みで、一気に引き込まれます。
その患者が入院する神経精神研究所付属病院で、その三人の患者を担当するのが主人公の識名愛衣です。
彼女はその難病を治療することができるのでしょうか?
この本の読みどころ
ここまで読んできて、ヒロインが難病に立ち向かう医療小説だと思った方はちょっと立ち止まってください。
「ユタ」というのをご存知でしょうか?
ユタとは、沖縄県や鹿児島奄美諸島の民間霊媒師(シャーマン)で、死霊の憑依を受けて口寄せする巫女のことを言います。
東北のイタコ等の方が馴染みがあるかもしれませんが、それに近い存在です。
実は彼女の祖母は沖縄生まれで、そのユタでした。
愛衣はその血を受け継いでいて、そのユタの力で難病に立ち向かいます。
おそらく、そのファンタジー的要素を受け入れられるかどうかで、この本を読みたいかどうか分かれると思います。
でも、安心してください。
その部分は、この大作の一要素にすぎません。
実はこの作品、二重、三重に伏線が張り巡らされたミステリー小説でもあり、難病患者の過去をめぐる謎解き、それと平行して進む通り魔連続殺人事件、さらには愛衣が受けた過去のトラウマとなった23年前の事件など、いくつものエピソードが絡み合って進行します。
まさにエンタメ小説の醍醐味を詰め込んだ内容。
どんでんがえしにつぐどんでんがえし、上下2巻の長さを感じさせない読みやすさで、先が気になって一気読み、必至です。
その他の2020年本屋大賞ノミネート作品はこちら