逆ソクラテス / 伊坂 幸太郎
どんな本?
“デビューしてから二十年、この仕事を続けてきた一つの成果のように感じます”
このように伊坂さんが語る本書は、新境地ともいえる少年や少女、子供を主人公にした5つの短編小説集です。
とはいえ、子供向けの本かというと、そんなことはまったくありません。
伊坂さん版『君たちはどう生きるか』とも評されているのも目にしましたが、確かに読んでみて、そのような側面はあると思います。
いじめる方/いじめられる方、虐待や犯罪者など、さまざまな善悪について、ただ教訓的だったりきれいごとで片付けないところが、やはり伊坂節とも言えるのではないでしょうか。
今までの伊坂さんの作品のエッセンスをいかしつつ、子供時代と大人になってその時代を回想するシーンを巧みに操り、最高の読後感を演出しています。
この本の読みどころ
時に言葉は、人を呪いのようにしばりつける。
日本代表のサッカー戦でよく言われる“絶対に負けられない戦いがある”などは、その通りなんだろうけど、果たして、その言葉がマイナスに作用していないだろうか、と思うことがあります。
本書の中にも、人を負の方向に導いてしまう人たちがでてきて、
“おまえは女子みたいな服を着ているな”
や、
“一歩踏み出せない歩君!”
など、その言葉は、周りにも言われた本人にも先入観を持たせてしまいます。
でも、その反対の言葉もあります。
みんなの先入観をひっくり返してくれる言葉、一歩踏み出す勇気を与えてくれる言葉。
生活態度にしろスポーツにしろ、人の考え方や行動を正しい方向へ導いていくためには、だた抑えつけるだけでは解決を生まないということを、手を変え、品を変えて見せてくれます。
その人の人生を変えるようなきっかけを与えることは、たったひとつの言葉かもしれません。
伊坂さん流の「哲学」ともいえる、その言葉のマジックを堪能できます。
興味のある方はぜひ。