おかしな二人 / 井上 夢人
どんな本?
ミステリー好きならば井上夢人さんと言ってピンとこなくても、岡嶋二人さんならばたいていご存知でしょう。
3〜40年ほど前に数々の名作を世に送り出したミステリー作家です。
知らない人のためにご紹介すると、岡嶋二人さんとは、井上泉さんと徳山諄一さんお二人のコンビによるペンネーム。
代表作の『クラインの壺』はミステリー好きなら必読で、80年代にあのマトリックスの世界観を先取りしていた傑作です。
そんなコンビによる作家という珍しい形態ゆえか、なかなか長く続けていくことは困難だったようです。
そんな出会いからコンビ解散までのいきさつを井上さんの主観からまとめたものが本書となります。
解散から約2、3年後頃に書かれたもののようですが、いかにコンビを続けることが大変だったかを深く知ることができます。
この本の読みどころ
もし、岡嶋二人さんの作品を読んだことがない方は、決してこの本を読まないでください。
なぜなら、各作品のネタバレが目白押しです。
逆に数々の作品を読んだ方でしたら、あの名作はどんな状況でどのようにして生まれたのかということを深く知ることができます。
作品をどのように構想したか、どうすれば面白くすることができるか、ミステリー小説の書き方のテクニックまで、もし作家を目指すような方でしたら下手な文章術の本など読むより、はるかにためになることをお約束します。
でも、この本はいいことばかりではありません。
「岡嶋二人盛衰記」とサブタイトルにある通り、前半のコンビ結成から江戸川乱歩賞を受賞するまでの「盛」と、コンビ解散までをたどる「衰」の2パートから成っているのですが、この「衰」のパートが読んでいるこちらが苦しくなるほど。
コンビ間の不満にみち溢れいていて、ファンなだけに知らなかった方が幸せだったかも、と少し思いました。
それでも、コンビとはそういうものだろうなと妙に納得できる部分もあり、徳山さんサイドの見解も読んでみたいと思いました。
(あとがきによると井上さんが書いたら?と打診したところ断ったとか)
ちなみに、本書のタイトル『おかしな二人』、ファンならばお気づきかと思いますが、ニール・サイモンの戯曲『おかしな二人』からとられたコンビ名の元ネタです。
読めば、また、岡嶋作品が読みたくなる困った本です。